「うーん。見事にバラバラやな」
姫条の感想を聞くまでもなく、綾瀬は頭を抱えていた。
葉月がちゃんと練習に来たのを喜んだのも束の間。今日子とのコンビネーションはガタガタだった。
バトンパスはともかく、いくらも走らないうちにバランスを崩す。つんのめって転ぶ。
あれはもう二人三脚じゃない、とまで言われた走りの片鱗すらなかった。
「大丈夫だ」
息を乱し、額の汗を腕で拭いながら、葉月が言った。
「何が?」
我ながら、損な性分だと、綾瀬は問いかけた。
「本番は、なんとかなる」
全く根拠のない台詞だった。
「今日は寝不足で俺の調子が悪い。それだけだ」
だったら授業中に寝とけや、と姫条が真面目な顔でふざけたことを言う。
「ああ、そうだな」
誰も笑えなかった。
ハアハアと肩で息をし、膝をついてしまっている今日子は、顔を伏せて何も言わない。
朝からなんだか青い顔をしていた今日子の方は、本当に具合が悪そうだった。
「お二人とも、今日は帰って休まれた方が良さそうですね」
守村が穏やかに言った。
「体調が戻れば、明日の本番はきっと、うまくいきますよ」
守村の言葉は気休めにすぎないと思ったが、今は信じたフリをするしかないようだった。
有沢が手を貸して今日子を立たせ、更衣室へと支えて行く。
いつもなら間違いなく、その役目を買って出る筈の葉月は、今は後も見ずに一人、先を行く。
「どうしたんでしょうね。葉月君も、明日香さんも」
どこまで悟っているのか分からない守村の呟きに、さぁな、と姫条だけが答えた。
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