予想外のことにびっくりして目を開けると、しどけない姿の今日子が自分を見下ろしていた。
「珪?」
両手で頬を挟まれた体勢は、いつもの、キスの手前ではなかった。
「さくらこって、だあれ?」
聞いたこともないその声音は、展開に付いていけない珪のぼんやりした頭を、一瞬にしてクリアにした。
22歳の誕生日プレゼントは、24時間、一緒に居てくれること。
多忙を極めるスケジュールの中から、強引に確保した一日の始まりに、最愛の恋人はひどく機嫌を損ねている。
「悪い。寝ぼけた」
「さくらこにしか、チューしないって、言った」
まさか本気にして焼いてる訳ではないだろうが、拗ねているそのカオが、見ていた夢の中のちっちゃな娘に重なる。
「そっくりだ。桜子と」
幸せな気持ちのまま、口に出していた。
頬からそっと手を離し、今日子は傍らの羽根枕を取り上げた。
そして、頭上高く掲げるや、ぼすんっと珪の顔の上に落した。
「珪のバカっ!もう知らないっ!」
さっき聞いたのと同じ台詞。
バタンッと、音高く閉じられる扉。
顔の上から枕をどかし、珪は考え込んだ。
“今日子にしか、チューしない”
そんなあたりまえの約束で、果たして機嫌を直してくれるだろうか。
いつかの未来の夢の中で、
『バッカじゃね?』
『アホやな』
呆れる友人の声を聞いた気がした。
- Fin -
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