□■わびさび亭■□GS

登場人物

高校1年生

高校2年生

高校3年生

卒業後

番外編

高校3年

告白 2.


『おはよう』
電話で珪の声を聞いた時から、ずっとドキドキしていた。
そのドキドキは、やさしい眼差しに包まれる度、早く、強くなって、うれしいのに、幸せなのに、胸が苦しくて泣きたくなった。
落ち着かなきゃ、普通にしてなきゃ、珪に気付かれてしまう。
想いを抑え込んで、なんでもないフリをするのは、もう、習い性になっていた。
けれど腕の中に抱きしめられた時、そのドキドキは鎮めることも、抑えることも出来なくて、そしてあんまり苦しかったから、たまらず逃げ出してしまった。
「ごめん」
謝る珪の言葉に、息が詰まる。
「悪かった」
必死で(かぶり)を振った。
「ちがうの。珪が悪いんじゃなくて・・・わたし・・・」
珪は、少しも悪くない。
「わたしが・・・くるしくて・・・」
悪いのは、
「おかしいよね?珪といるのはとてもうれしいのに、急に苦しくなるの。そうなると、わたし、どうしていいか、わからなくて・・・」
こんなにも近づいてしまった場所で、どうしたらいいのかわからなくて、震えている自分。
その震えを止めようとするように、再び、珪の腕に包まれた。
「・・・わかるか?」
頬をつけた珪の胸から、トクトクと脈打つ、早い鼓動が伝わってくる。
「ずっと、俺はこうだった」
ゆっくりと、伝えられる珪の想い。
「おまえと会う時、おまえが俺の名を呼んで笑う時、俺はいつもこうだった。おまえのことが、たまらなく愛おしくて、でも、それを言葉にしておまえを失うのが、何よりずっと恐かった」
失うのが恐かったのは、自分も同じ。
何を偽っても、ただ、傍に居たかった。
「だから、うれしかった」
だから、どんなにうれしかったか。
珪に、求めてもらえたことが。
もう、抑える必要のない想いが、涙と一緒に溢れてくる。
「珪が、好き」
伝えようとする声は、自分でも頼りなく思うほど、小さかった。
でも、ちゃんと告げなければいけない。
「珪と仲良しでいるのを続けたくて、確かめることからずっと逃げてた」
優しい眼差しに、ただ甘えていたずるさを。
「珪への気持ちに、ずっと気付かないふりをしてた」
仲良しで居られればいいと、それ以上を望む本心から、目を背け続けた弱さを。
「わたしには、自分の心と向き合う勇気がなかったのに、」
最後まで、臆病だったのに
「珪は、伝えてくれて・・・ありがとう・・・」
珪の両手が頬を包み、瞳を合わせてくれたけど、涙でぼやけた珪の顔は、よく見えない。
「もう一度、聞きたい」
こんな時なのに、今日子は笑ってしまった。
偽りを詫びる言葉も、伝えてくれた気持ちへの感謝の言葉も、珪はきっと聞いていないと、わかったから。
求められているのは、今、一番告げたい言葉は、たったひとつだけ。
「珪が好き。大好き」

 
  
欲しくて、本当に欲しくてたまらなかった言葉。
涙でいっぱいの瞳に現れる心。
再び満たされた、腕の中に在る愛しいぬくもり。
何より欲しかった言葉を紡いでくれた唇に、珪はそっと、くちづけた。
自分の中で、焦がれ続けた想いが堰を切るのを、感じながら。



- Fin -

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