□■わびさび亭■□GS

登場人物

高校1年生

高校2年生

高校3年生

卒業後

番外編

高校3年

ここから始めよう 1.


卒業式の朝、珪は誰よりも早く学校に来た。
そして、教会へ向かった。
絵本と、扉の鍵を持って。
祖父の遺品の中にあった教会の扉の鍵。
ステンドグラスの製作者である祖父に、友人でもあった当時の学園の理事長が渡したもの。
見せてもらっただけで、使ったことは一度もなかったが、鍵穴に差し込んでみるとカチャリと嵌った。
扉を開くと、記憶と同じステンドグラスが珪を迎えた。
『けいくん、はやく、はやく!』 
お話の続きを早く聞きたい、ちいさな今日子が、ぴょんぴょん飛び跳ねて、手招きするのが見える。
通路をゆっくりと、珪は歩いた。
夢というカタチでも、今日子の中に約束の記憶が残っているとは、思わなかった。
珪にとって、大切なのは今だったから、今日子が昔の約束を忘れてしまっていても、仕方がないで済ませてしまえた。
欲しいのは今と、続く未来で、過去ではなかったから。
でも。
「おまえは、待っていてくれたんだな」
一番前の席に絵本を置く。
さよならをする日に、自分が言ったのだ。
帰ってきたら、いつもお話の続きをしたここに、絵本を置いておくと。
『そうしたら、もしすれ違っても、帰ってきたって、わかるだろ?』
うん、そうだねと、涙の止まらない目を手で擦って、一生懸命、笑おうとしてくれた。
約束を、果たさなければいけない。
必ず迎えに来ると、誓ったのだから。
遅すぎる王子の手を、姫が取ってくれなかったとしても、約束は、果たされるのを待っている。
教会を出て、再び鍵を掛けようとしたが、
「・・・閉まらない」
そういえば、扉が壊れていると聞いたことがある。
隙間を残して、ビクともしない扉をどうしたものかと考えたが、このままにしておくことにした。
こんな敷地の奥の教会に来るような、物好きもいないだろう。
卒業式が済んだら、今日子をここへ連れて来よう。
迷いは、もう、無かった。



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