講堂を揺るがすような拍手と歓声に、外にいる一般参加者や生徒たちが、何事かと振り返った。
アンコールは3回繰り返され、講堂内の照明がすべて点灯し明るくなった後も、鳴り止まぬ拍手に幕は上げられ、更にもう一度、拍手によって、こじ開けられた。
いくつかのアクシデントはあったが、『シンデレラ』の舞台は大成功を収めたのだった。
「はーづーきーっ」
講堂から出てきた葉月の胸倉を、すっ飛んできた志筑が掴んだ。
「貴様は俺の寿命を縮める気かっ」
普段の勿体ぶった態度は、どこにもない。
照明と音楽、幕引きの指示出しを一手に引き受けていた志筑は、中盤以降、冷たい汗の掻きっぱなしだったのだ。
「悪かった」
しゅんとした様で謝られ、志筑は怒りの出鼻を挫かれた。
「気にするな、葉月。すごくウケてたぞ」
「楠本っ、貴様は黙ってろ!」
なぜか、葉月を慰める楠本を一喝し、
「そや、姫を泣かしたら、あかんなぁ」
「姫条君、あれは珪のせいじゃなくて、わたしが、」
「おまえらっ、少しは葉月に言ってやれよ!」
キリキリと眼尻を立てたのだが、
「大変素晴らしかった。いい舞台だった」
終始、監督役に徹していた氷室の誉め言葉で、この場の盛り上がりは一気に最高潮へと達し、志筑の怒りは誰の共感も得ることが出来なかったのである。
その日の夜、遅く。
「終わったな」
「・・・うん」
打ち上げの後の帰り道を、珪は今日子と辿っていた。
「今年はおまえ、どこも回れなかったんじゃないか?」
「ショーも、シンデレラも、午後だったから・・・」
「残念だったな」
「ううん。楽しかった」
「そうか」
言葉を掛けるのは珪の方で、答えを返す以外、今日子は黙っていた。
「今度の日曜、どこか行かないか?ずっと練習ばかりだったし・・・よかったら」
「うん。行きたい」
今日子の家の前で約束を交わした。
「家、入らないのか?」
「・・・珪を、見送ったら、ね」
今、すぐにでも、この場で抱きしめたい衝動を、珪は無理矢理抑え込んだ。
「じゃあ、また」
「うん、また」
振り返るたび、見送ってくれている今日子と離れていくのに、遠くなる気がしない。
(俺の望みを伝えても、おまえは、微笑っていてくれるよな?)
このかすかな期待と自信が消えないうちに。
珪にとっての本番の幕が上がるのは、七日後だった。
- Fin-
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