その日はなぜか、とても運が悪かった。
まず、予定していた森林公園。
噴水公園で連休にかけて開催されるイベントの、今日が初日だと知ってはいたが、これが予想外の人出で、広い園内のどこに行っても人がわさわさといて落ち着かない。
これじゃ昼寝も出来やしないと珪がぼやき、それならいっそ違う処へと、植物公園まで足を延ばすと、臨時休館。
博物館の展示はもう見ていたし、近いところでは、あとは温水プールだが、もちろん水着の用意などない。
公園通り沿いに、ウィンドーショッピングをしながら散歩という手もないではないが、イベントからの人の流れで、混んでいそうだった。
「どうするかな」
ぐるぐる歩き回って、結局、もとの公園入り口まで戻ってきた。
今からバスに乗って、りんかい方面にでも行くかと考えていると、
「ね、珪のお家に行くのはどうかな?」
今日子が遠慮がちに切り出した。
「俺の家?」
「うん。新しいジグソーパズル始めたって、言ってたでしょ?二人でそれするのはどうかな?」
「俺の家か……」
このところ忙しかったから、ゆっくりしたいという珪の希望を汲んでの、今日子の提案だった。
確かに、無駄に歩き回って疲れてもいたし、静かというなら、どこよりも一番ではある。
「都合悪い?」
「悪くは、ない」
両親は年中不在で、一人暮らしも同然の家だったから、急に誰を連れ帰っても気兼ねする必要もない。
「ちょっと思いついただけだから、別のとこを考えようか」
歯切れの悪い珪の様子に、今日子が案を引っ込める。
「いや、いいよ」
きっぱりと言う。
「行こう。俺の家」
森林公園から歩いて約20分。
閑静な住宅街に珪の家はあった。
「わぁ、そういえば久しぶり。珪の家に来るの」
お邪魔しまーすと、サンダルを揃えて上がる。
ガラス扉の向こうは広いリビングで、左手の暖炉の前にソファセット。
右手には6人掛けの大きなダイニングテーブルがある。
正面が庭に面したガラスサッシで、テラスから庭に出られるようになっていて、中央の明かり取りには縦長にステンドグラスが嵌め込まれていた。
「座っててくれ。パズル取って来る」
ソファの方を指し示す。
珪の部屋でいいのに、と言おうとして止める。
予定になく来てしまったから、部屋に入られては困ることもあるのだろう。
森林公園から近いというだけの思いつきだったが、悪かったかなぁと思う。
「あんまり長くお邪魔しないで帰ろう」
バッグを足元に置いて、今日子はおとなしくソファに座った。
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