□■わびさび亭■□GS

登場人物

高校1年生

高校2年生

高校3年生

卒業後

番外編

高校1年

ふたりで一番 1.


ギィと重い扉を引いて、二人の子供が中へ滑り込む。
すぐに今日子が扉を押して閉めようとするのを、珪の手が止めた。
「こうやって、ちょっと扉を開けておくんだ」
まだ細い腕が通るくらいの、隙間を残してみせる。
「どうして?」
今日子が首を傾げると、
「こうしとけば、かえる時、開けるのラクだろ?」
少し得意そうに答える。
「あ、そっか。うん、そうだよね!けいくん、あたまいい」
感心したように誉められて、今度は照れくさそうなカオになる。
「じいちゃんが教えてくれたんだ。おれはまだ、小さいからって」
種明かしをしてみせると、否定するように今日子は首を横に振った。
「けいくんは、ちいさくなんか、ないよ。よーちえんのおおきいコたちと、おんなじくらいだもん」
「・・・大きいんだ、おれ」
「けいくんのとこでは、ちがうの?」
問い掛けに、珪は考えるようなカオになった。
「おれ、ようちえんには行ってないんだ。だから、比べたことなかった」
周りにいる大人達からは、いつも、一番ちいさなコ、という扱いしか、受けたことがない。
「だいじょーぶ!けいくんは、おっきいよ」
まるで自分のことを自慢するように言う。
なんだか、くすぐったいような気分になって、それをごまかす為に手をつないだ。
「行こ」
「うん!」
正面のステンドグラスを、眩しそうな瞳で仰いでから、二人はゆっくりと歩き出した。
扉から離れ、奥へと進むごとに、つないでいる手にキュッと力が入ってくる。
まだ、こわいのかな、と珪は思った。
昨日もこんな風につかまってきた。
「だいじょうぶ、こわくないよ」
安心させてあげたくて言うと、今日子は恥ずかしいのか、赤くなった。
「こわくなんかないよ!けいくんがいるから、へーきだもん!」
強がっているにしては格好のつかない台詞だったけれど、珪のくすぐったい気分は、もっと強くなった。
「うん。おれ、いるから。へいきだよな」
笑いかけると、
「うん。へーき」
今日子も笑顔になる。
ギュウと手をつないだまま、やっと祭壇の前まで来ると、右側の椅子に並んで腰掛けた。
「わたしね、ひらがなとカタカナだったら、よめるんだよ」
得意げに宣言して、開かれた絵本を覗き込んだが、あれ?いうようにまた、首を傾げる。
綺麗な絵と一緒に書かれている文字は、知っている形のどれにも似ていない。
「このお話はね、じいちゃんの国のことばで書かれてるんだ」
「けいくん、よめるの?」
「おれは、まだ読めない。でも、お話はぜんぶ、おぼえてるから」
「ぜんぶ?このご本のおはなし、みんな?」
「うん」
珪の返事に、今日子は目を丸くした。
字がこんなに沢山ある、厚いご本のお話をぜんぶ覚えている。
けいくんは、とっても頭がいいんだと感心した。
「けいくん、ひらがな、よめる?」
「読めるよ」
「カタカナは?」
「読める。あと、漢字もちょっとだけ」
「かんじも!?」
ちょっぴり自慢してみたくなった珪は、今日子があんまり大きな声でびっくりするから、慌てて付け加えた。
「ちょっとだけだよ。たくさんじゃない」
「けいくんて・・・けいくんて、すごいね。すごいんだね!」
まん丸になった瞳をキラキラさせて、すごいね、と何度も繰り返すから、照れくさくてたまらない。
「ほら、お話、はじめるよ」
薄赤く染まった頬を本に伏せて、珪は何度も訊かせてもらったお話を今日子の為に語り始めた。



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