「あーあ、名乗ってないのが、まだ救いだよな。葉月、あのメモちゃんと捨ててくれっかな」
どこの誰とも知れないヤツの携帯番号。
おまけに、胡散臭い台詞付き。
無防備に掛ける者など、いやしない。
まさか、道端に捨ててくような行儀の悪い男ではないだろうが、ヘマをした以上、あの携帯番号は誰のものとも分からぬまま、きっちり廃棄してもらわなければ困る。
相手がどんなにイイオトコだろうと、尽は姉を安売りする気は、更々無かった。
「たっだいまぁ、って、なんだよ!」
玄関のドアを開けて驚く。
腰に手を当て、仁王立ちしたそのポーズは、姉が本気で叱ろうとする時のそれ。
なんかやったっけ?と、自分の言動を急いで思い返してみる。
「尽、どうして、お姉ちゃんの言うことが聞けないの」
自分では、すごく恐く見せていると思っているカオ。
でも、全然恐くない。
「なんだよ。なに、怒ってんのさ」
尽が恐れているのは、泣き顔だけだったから。
「怒るに決まってるでしょ!どうして、こんなヘンな真似するのよ!」
ヘンな真似って、どんな真似?
口には出していないのに、ますます恐いカオをしてみせる。
「葉月君にわたしの携帯番号押し付けるなんて、びっくりするし、ヘンに思われるじゃない!お姉ちゃん、すっごく恥ずかしかったんだからっ」
「え・・・なんで、知ってんの?」
まさか、見られていた?
あの無様な失敗を。
「掛かってきたの!葉月君から!」
「うっそ・・・マジで?」
「こんなウソついたって、しょうがないでしょ」
その電話のやりとりを思い出したのか、怒っているカオが赤くなる。
「へ・・・え、そっか。なんだ」
目を付けた、第一候補。
「なに、ニヤニヤしてるの?お姉ちゃん、怒ってるんだからね!」
世界で一番イイオトコ(仮)だけど。
「葉月ってさ、葉月って」
「尽?」
「姉ちゃんと一緒で、ちょっとボケなんだ!」
もしかしたら、本当に、完璧なのかもしれない。
「・・・尽、ちょっと、そこに座りなさい!」
「やーだよ」
トロい姉の手をカンタンにかわして、二階への階段を駆け上がる。
「待ちなさいっ、尽!」
(みてろよ、葉月!ゼッタイ、姉ちゃんとくっつけてみせるからな!)
- Fin -
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